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2020.12.24

造り手への旅路(26) 半世紀を超えて見えた景色

10年前、醤油業界を賑わせた人がいる

ミツル醤油 城慶典さんだ

「醤油を全て自分たちで造る」

福岡県・糸島市にある醤油蔵の

四代目である慶典さんは一から醤油を造る蔵に立ち返るべく40年ぶりに挑む事にした

当たり前の事であるようだが、

生産と物流、そして機械化、速醸技術の確立、大手メーカー台頭による生産コストの低下、国による生産量均一化と向上の政策

 

これらが巻き起こった昭和の造り醤油蔵は生き残るために、組合などから生醤油と呼ばれる醤油の元を仕入れ、独自の味付けを施し販売する決断が増えた背景がある

 

 

「全て自分たちで手造りし

おじいちゃんたちの時代の蔵に戻したい」

慶典さんは高校生の時に思い立つ

 

以来、自分で納得のいく醤油を一から造るために奮闘すること10余年

 

 

醸造修学

造りだけではやっていけないと販路開拓のための勉学

そして日本各地での醤油蔵修行

 

 

いよいよ実家に戻り仕込むと決めたが

それは困難の連続でもあった

使われていなかった蔵の手入れ

大豆や小麦を処理する道具の購入

建築法と擦り合わせながらの麹室の新設

幸い木桶は残っていたがリカバリーが必要

 

 

一つ一つ40年間の穴を埋めるべく準備を進め、再び醸され始めたもろみ

 

そして2013年秋 

ついに慶典さんにとって初絞りの日を迎える

 

 

弛まぬ地道な手作業の積み重ねと長期熟成を経ても作られる味わいに、物珍しさや若さなどの話題ではなく、生粋の美味しさにファンも増えた

 

だが、納得のいくもの作るため慶典さんにはまだまだやりたい事があった

 

蔵のある糸島は農業人口も多い穀倉地帯でもある

この地元の農産物と近隣の海産物を使って何かものづくりがてきないだろうか?

 

こうしてできたのが糸島の橙を使ったポン酢といりこを用いたテロワールシリーズ

 

やがてその繋がりから醤油の原料となる大豆や小麦の生産者とも出会う

 

現在ミツル醤油で慶典さんが仕込むものは大豆と小麦、塩と全て糸島産

どれも「日常人が口にするもの」で作られている

 

当たり前だろうが、地元だけで賄える品質とこの出会いは奇跡に近いと思った

 

今年2020年に仕込まれたもろみ
そして2年経たもろみ

 

10年間で変わったこともある

小麦の焙煎はプロに任せ、より芯まで香ばしく醸しやくすなるように

麹づくりは温度センサーもないので自分で調整し、夜中もチェックする

 

「最初の頃はまめに見に行ってたり寝なかったけど今は寝ますよ笑

10年やってきていままでの季節や外気温などようやくわかるようになってきたので」

濃口醤油はその年の「テロワールが分かる醤油」としてヴィンテージをつけ、年毎にリリースしていたがこれも辞めた

醤油は瓶詰めしてからの消費期限が二年と定められているため、濃口醤油は出荷前に絞ることが多い

多種に渡り分散されたものは樽が開かずに次の仕込みが出来ない事態に、そして売り買いも難しいと判断した

今はこの10年の経験とストックでより良いブレンド醤油をリリースしている

 

醤油の仕込みは冬のみだが、人気の自家製麹や甘酒販売のため、麹づくりは通年行われている

 

 

「いつかは工場も増築したいんですけどね」

と慶典さん

醤油用の麹づくりと販売用麹は別物で、

曰く「福岡ドームで野球やった後にサーカー場にするみたいな」大入れ替えだそうだ

限られたスペースでそれはそれは大変そうである

 

 

そして醤油蔵があるのは住宅地

外観変わる為、新たに工場は建てられない

どのみち仕込みながら立て直しはできないから更地で作るか考えは尽きない

 

 

 

 

最後に慶典さんに聞いてみた

「醤油作りは楽しいですか?」

 

「いやぁ(暫し沈黙)

楽しいですよ

お客さんがふえるのが嬉しいです」

とポツリ

 

40年間途絶えてしまった醤油仕込みを復活させ、試行錯誤しながら駆け抜けてきた城さんは、きっと楽しいだけでなく知ってもらい、実際に使ってもらえることに喜びを感じているんだろうな

 

醤油は原料全てを麹にする

城さんも全ての事・もの・人々にタネを植えていったのではないだろうか

良い菌は良い働きをする

きっと城さんの手からはそんなタネが生まれているはずだ

これからも楽しみで大好きな醤油蔵

応援してます!

 

by.YUKI KIMURA

 

 

 

 


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